ビットコイン(Bitcoin)や仮想通貨が相変わらず注目を集めている。
仮想通貨の基盤であるブロックチェーンの技術を導入する企業も増えてきているが、社内にブロックチェーンを理解している管理者や技術者が十分確保できていない企業も多いという。
また、仮想通貨や「ICO(イニシャルコインオファリング)」に投資する場合も、まずは質のいい情報を得たいと考える人は多いだろう。
そこで今、受講者が急増しているのが仮想通貨やブロックチェーンの知識を学べるクラスだという。
今回は、連載5回目にも登場いただいたBlockchain Academy(ブロックチェーンアカデミー)の創業者でCEOのAmarjit Singh(アマジット・シン)氏に取材し、ブロックチェーンアカデミーで何が学べるのか、また、どういう需要が増えているのかをうかがった。
▼ 第五回 仮想通貨の人脈や知識が広がる「コミュニティー」
https://www.the-kl.com/contents/4722/
受講希望者急増中の3つのコース
取材場所として指定されたのは、日本人も多く住むモントキアラにあるショッピングモール「Publika」。
以前はここを拠点としていたが、最近、生徒数が急激に増えたため、広いスペースを求めてプチョン(Puchong、クアラルンプール中心部から車で20分ほどの街)の複合施設「IOI Boulevard」に移転。クラスはプチョンで行い、モントキアラのオフィスはミーティングなど必要に応じて使っているという。
Amarjit氏によると「クラスによっては1カ月待ち」というほどブロックチェーンを学びたい人が増えており、サウジアラビアやドバイ、ベトアムやシンガポールから来馬した受講生もいたという。
ブロックチェーンアカデミーで開講しているのは以下の3コースだ。
① Blockchain Technology 101
経営者や管理職向けのブロックチェーンの基礎を学ぶ2日間のコース。
特に基礎知識は必要としないが、ブロックチェーンによって可能になることやセキュリティ面、さまざまな種類の分散型アプリケーション(Dapps)、世界のどういった企業がブロックチェーンの導入に成功したか、またブロックチェーン技術を導入すべき業界とは何かなどについて学ぶ。最終日には、P2P(Peer-to-Peer)の小規模のブロックチェーンを作るところまで生徒全員が体験できる。
② Bitcoin Blockchain Fundamentals
ビットコインの基礎知識を学ぶ1日コース。
経営者や管理職、投資家向けの内容。ビットコインが世界で交換が可能であるといった基本的な仕組み、技術や安全性、ウォレットの仕組みや仮想通貨の送金や受け取り、マイニングについてなどのほか、当連載でも紹介したExbit Asiaなどマレーシア国内で利用できる取引所や、個人間で取引ができる国際的なビットコイン交換所サイト(localbitcoin.com)なども紹介する。技術的な話よりも実務的な内容が多く、特に基礎知識は必要ない。
③ Ethereum Smart Contract Developer
イーサリアム(Ethereum)のスマートコントラクトとは何かを学ぶ3日間のコース。
イーサリアムを構築する言語「Solidity(ソリディティ)」や、イーサリアムのブロックチェーンを利用してスマートコントラクトを構築する方法、また、分散型アプリケーション(Dapps)を開発したり、取引をたどったりできるようになることを目指す3日間のコース。受講者は、C/C++言語かJava Scriptを使った基礎的なプログラミングスキル、MY SQLの基礎的なデータベースの知識を持っていると理解しやすいだろう。プログラミングやコーディングのスキルも詳しく学べる。スマートフォンとノートPCを持参する必要がある。
3つのコースはどれも修了試験はない。
ユニークなのは、すべてのコースを受講した生徒には、修了したことを証明する受講証明書が、タイムスタンプとハッシュIDなどブロックチェーンのテクノロジーを使い、改ざん不可能な形で授与されることだ。
「当アカデミーのコースは世界トップレベルの大学ともタイアップしており、Institute of iBusiness (IIB) カウンシルにもごく最近認定を受けた。受講証明書があれば就職にも有利になる。実際、受講後に転職して給料が2倍になったケースもある」(Amarjit氏)
コミュニティとアカデミーを両輪に
Amarjit氏のバックグランドはITだ。
IBMやシティバンクなどでエンジニアとしてキャリアを積み、2013年頃から仮想通貨やブロックチェーンの技術を学び始めた。
ビットコインやイーサリアムのシステムを学び、国際的な非営利団体「The CryptoCurrency Certification Consortium (C4)」が認定しているCertified Bitcoin Professional (CBP)を取得。これは、マレーシアで取得したのは4〜5人という資格で、ブロックチェーンを理解しているという証明といえる。
2016年にBlockchain Academyを創業し、開講したのは2017年。
これまではグループや個人を対象にクラスを提供してきたが、生徒が増えて講師が足りなくなってきたことと、グローバル展開を視野に入れているため、今後はオンラインのクラスにも力を入れていく計画だ。
最近では、国がブロックチェーンの法整備を進めるための草案を作るため、マラヤ大学が主催した会合にも出席を求められた。大手金融機関や政府の関連機関から集まったその有識者会議では、各界の専門家の経験や知識を草案としてとりまとめ、今年5月から6月にかけてマレーシア中央銀行での話し合いの下地とされるという。
一方、同連載の第五回で紹介したコミュニティ「Crypto Knights KL」は、月1回、Amarjit氏が開催している参加費30リンギットのミートアップだ。
プログラマーや会社社長など、さまざまなバックグラウンドをもつ参加者がいるため、人脈作りにも有益で、ミートアップ後はネットワークを広げたい参加者達がお互いに自己紹介や仮想通貨にどのように関わっているかなどの情報交換をするためなかなかお開きにならないほどだ。
Amarjit氏にとって、Crypto Knightsはほぼ無償のボランティア活動であり、アカデミーはビジネス。その両方が重要だという。
「質のいいコミュニティは、ブロックチェーンの活動をしていく上で大きな価値を持つ。Crypto Knightsで学んだ参加者がもっと学びたいと思えばアカデミーを紹介できるし、コミュニティから産まれた人脈を通じてさまざまな活動が可能になる」
Crypto Knightsは、現在クアラルンプールだけで開催しているが、将来的には、ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピンにも同様のコミュニティを作る計画だという。
リアルなミートアップだけでなく、ごく最近ではCrypto Knightsのサイトも開設。会員に向けて、政府の規制やブロックチェーン、仮想通貨の最新情報を流したり、ブロックチェーンや仮想通貨、ウォレットや取引所、ICOなどについての知識を学べるような記事や動画を配信している。
質のいいICOの見分け方
コミュニティのメンバーからよく質問されるのが「ICO」についてだ。
ここ数年で急増し、世界で1500以上ものプロジェクトが進行しているICOだが、どうやって質のいいICOを見分ければいいのか、チェックすべきポイントを聞いてみた。
「ICOの質を見極めるには、いくつかの段階を踏んで分析していきます。まずは、ICOのマネジメントチームのメンバーをチェックします。
以前からブロックチェーンに関わっている人物なら、github.comというプログラマーが利用するサイトのアカウントを持っているはず。ここはフォーラムも活発なので、本名を使っていなくても何らかの情報が得られます。あとは、bitcointalk.orgもチェックします。
これらのサイトで活動している人物がマネジメントチームのメンバーであると分かったら、次はホワイトペーパーの内容を精査し、以下のポイントをチェックします。」
- すでに何らかのプロダクトかアプリケーションが実現化されているかどうか?
- 実現化されたアプリケーションには、ブロックチェーンを活用する必要性があるかどうか?
- ブロックチェーンを利用することで、効率化とコスト削減ができているか?
「ブロックチェーンを利用する必要がないアプリケーションや、ブロックチェーンを使ってはいるものの、効率化もコスト削減もできていない場合もある。
以上のチェックポイントに当てはまるなら、質のいいプロジェクトといえる可能性が高いでしょう。」
去年からICOのコンサルティングの依頼が急増したというAmarjit氏は「ICOが乱立している状況なので、質のいいICOを見極めて出資するためにも学ぶ場は必要です」と言う。
仮想通貨やブロックチェーンについての正しい情報が学べる場へのニーズは、今後さらに高まっていきそうだ。
Blockchain Academyのサイト
https://www.blockchainacademy.asia/
Crypto Knightsのサイト
www.CryptoKnightsInc.com