クアラルンプールでフレンチレストランの老舗といえば、MiCasa All Suite Hotel(ミカサホテル)のCilantro(シラントロ)。数々の賞を受賞している定評あるファインダイニングで、ロイヤルファミリーやセレブも多く訪れる。
そして、シラントロといえば、日本人の木村貴志シェフの名前が挙がる。
現在では、シラントロから巣立った多くのシェフがマレーシアのファインダイニングで活躍しており、シラントロはいわばシェフ養成所とも言えるほど。
そして、多くのシェフが師事した恩師として木村シェフの名前を出す。
日本人シェフがマレーシアのダイニングシーンでこれほど長期にわたり第一線で活躍しているのはなぜなのか。
レストラン内を一部改装しリニューアルしたシラントロで、木村シェフに話を伺った。
全面的に任せてくれるオーナーとの出会い
シラントロと木村シェフを語る上で外せないのが、オーナーのTan Boon Lee(タン・ブンリー)氏。
ミッドバレーメガモールやIGBインターナショナルスクールなどを参加にもつIGBグループのトップに立つ人物である。
食通としても知られるTan氏は、オーストラリアで話題となっていた和久田哲也シェフの元でスーシェフ(副料理長)を務めていたマレーシア人シェフをスカウト。
そのシェフを迎えて開業したのがフレンチに日本食のスパイスを散りばめたフュージョンフレンチのシラントロだ。
木村シェフは、フランスのミシュラン星付きのレストランなどで経験を積んだ後、1999年に来馬。クアラルンプールの日本大使の元で専属シェフとして働き始めた。
そして、取引していた食材のサプライヤーからシラントロのことを知ったという。
「食材をレストランに卸している彼らは、どのレストランが一番いい食材を使っているか知っていますからね。それが、シラントロでした」
シラントロのシェフが独立するにあたり、シェフを募集していることをサプライヤーから聞いた木村シェフは、自分を売り込むためにシラントロを訪れる。
そして、オーナーのために即興で一品を料理した。
「調理したのはガルーパフィッシュ(ハタの一種)のスチーム。岩のりと枝豆、アンチョビのソースを添えたものです」
この一品で、Tan氏は木村シェフを迎え入れることを決めたという。2001年、17年前のことだ。
Tan氏との関係性を木村シェフはこう語る。
「いいレストランを作るには、オーナー、シェフ、サービスが一体となってゲストのことを考えるチームワークが不可欠です。オーナーの『ゲストの幸せが第一』という考えはブレたことがないし、判断も速いのでとても仕事がやりやすい。なにより、私を信頼してくださっていて、ほぼ任せてくださる。
海外からを含めこれまで多くのオファーをいただきましたが、やりたいことができているので独立したいとは思わないですね。特にここ2、3年は、理想にかなり近づいてきたと感じています」
基本はフレンチで、和の文化をプラス
Grilled Same Karei with Botan Ebi。とある日のランチのメインコース。
「和食を学んだことはない」という木村シェフは、「シラントロはあくまでもフレンチレストラン。フレンチの調理法を基本としていて、そこに私が生まれ育った日本の食材や手法を取り入れることがある」と語る。
例えば、木村シェフは魚介を使ったメニューを得意とするが、それも日本風の手法でひと手間かける。
「築地などでは昔から行われてきた活け締めの手法を使い、死後硬直している歯ごたえのある状態からさらに寝かせて熟成させ、うま味成分が出てきた魚を使うこともあります。
この手法は、最近では日本人の職人が世界中で広めており、日本食以外のシェフにも知られるようになってきました」
目指すのは、素材を活かしたシンプルな料理
目指すのは「シンプリシティ」と語る木村シェフ曰く、シンプルな料理には3つの要素が必要だという。
「いい食材、素材に適した調理法、調味料。このうち一つでも欠けたらダメ」
なかでも食材から刺激を受けることは多く、食材には徹底的にこだわる。
「サプライヤーには毎日新鮮な食材が入荷されますが、そのうち最高のものをいつもうちのレストランにくれるとは限らない。だから、サプライヤーとの関係作りは大切。
サプライヤーもチームの一員だと思っています」
最高の食材を手に入れたら、どう調理すれば一番おいしくなるかを考える。
グリルするなら、フライパンでグリルするか、オーブンか?
火力はどれくらいか? 火からどれくらい離すか?
皮から焼くか、身から焼くか?
毎日、食材の状態を確認したら、どう調理するかを考え、キッチンで実験を繰り替えすという。
最近で最も印象に残っている食材は、日本から輸入した「瑞の香(みずのか)」というイチゴだ。
「酸味と甘さのバランスが絶妙でした。冷蔵庫から出してすぐの冷たい状態では十分に味を引き出せないので、オーブンでほんの少し温め、マスカルポーネなどと一緒にサーブしました」
改装して新しく設けられたポップアップキッチンYuu@Cilantro。プライベートイベントなどに利用できる。
華やかに見えるファインダイニングの世界だが、穏やかな雰囲気ながらも料理への熱い情熱が感じられる木村シェフは実直そのもの。日々キッチンで繰り返される工夫と実験が今のシラントロを作っているのだと感じた。
また、サービスを含めて長く務めるスタッフが多く、巣立っていったシェフが食材を借りにくることもあるというエピソードからも木村シェフの人柄がうかがえた。
シラントロを初めて訪れる方におすすめなのが、金曜日だけのランチコース。
3コースにデザートも付いて188リンギットは驚くほどリーズナブルだ。
ランチのみ、ワインとシャンペンの持ち込みは無料となる。
ディナーは、3コースと4コースのセットメニューがおすすめ。
コースの詳細は、下記のウェブサイトから確認できる。
また、シラントロのワインリストをチェックしてみるのもいいだろう。幅広いタイプのワインが揃い、価格もリーズナブルだ。ワインまたはシャンペンを1本オーダーすれば、ワインの持ち込み料1本分50リンギットが無料となる。
※ハードリカーの持ち込み料は250リンギット
【店舗名】 | Cilantro Restaurant & Wine Bar(シラントロ レストラン&ワインバー) |
【住所】 | MiCasa All Suite Hotel内 368-B, Jalan Tun Razak, 50400 Kuala Lumpur, Malaysia |
【電話番号】 | 6 03 2179 8082 |
【営業時間】 | 月曜日~土曜日 ランチ(金曜日のみ):PM12:00 - PM2:00 ディナー:PM6:00 ー PM10:30 |
【予算】 | ランチ(金曜日のみ)RM188 nett ディナー 3コース RM408nett 〜 ※上記価格は2018年9月以降、SST税施行に伴い変更予定 |
【休業日】 | 日曜日 |
【個室の有無】 | 6室 2室のVIPルーム |
【喫煙】 | 不可 |
【Eメール】 | cilantrosvr@micasahotel.com |
【WEBサイト】 | https://www.cilantrokl.com/menus |
※掲載内容は2018年7月時点の情報です。