クアラルンプールに続々と増える個性的なコワーキングスペース

ASEANビジネスニュース

ソフトバンクも出資しているアメリカ発のコワーキングスペース運営会社「WeWork(ウィワーク)」が、今年はじめに東京で開業したのが話題になっているが、マレーシアにも2017年あたりからコワーキングスペースのブームが来ている。

当初は、クアラルンプール都心を中心に1拠点だけ展開する小規模のコワーキングスペースが多かったが、最近は大規模で複数拠点を展開する大手が登場し始めた。

 

 

 

ペトロナスと提携したコワーキングスペース

国営石油企業Petronas傘下のPetronas Dagangan(ペトロナスダガンガン)と提携したコワーキングオフィスを8月14日に開業したのは、マレーシア国内最大手のコワーキングスペース運営企業のCommon Ground(コモングラウンド)だ。

2017年3月にクアラルンプールの高級住宅地Damansara Hights(ダマンサラハイツ)に1拠点目を開業するや評判となり、2018年8月時点で7カ所でコワーキングスペースを運営。

2018年末までにフィリピンとタイを含めて合計12のオフィスを開業する計画という、現在急成長している企業である。

 

 

Common GroundCommon Ground、5拠点目のAra Damansara店では、提携した託児施設「Curious Child」が隣にある。

 

 

一方、提携したPetronas Daganganは、Petronasのマーケティングを担当する超大手企業。

 

昨今の電気自動車の増加により、今後石油の売り上げは減少する見込みだ。

それを受け、Petronas Daganganは非燃料部門の売り上げを、現在の10%から、2〜3年以内に30%程度まで押し上げたいとしている。そのための施策として、Common Groundと提携したのだ。

 

 

The Place@AmpangThe Place@Ampang

 

 

Petronas Daganganが所有するガソリンスタンドを中心とした複合施設「The Place@Ampang」の一部を改装してCommon Ground Ampangをオープン。

このコワーキングスペースを拠点とするさまざまなスタートアップ企業とコラボレーションし、The Placeのガソリンスタンドをさまざまな新しいアイデアを試す「サンドボックス」として活用していきたいとしている。

 

 

 

「コミュニティ」を重視するCommon Ground

WeWorkをヒントに創業したCommon Groundの特徴は「コミュニティ」を重視していることだ。

コミュニティの交流を活発にするため、週に3〜4回、オフィスのマネジメントスタッフ主導でイベントが開催されている。

ITや技術系トークやビジネストークのほか、コーヒーやジェラートを作るイベントなどもあるという。

こういうイベントを通じて、コワーキングスペースで働く多くの人同士が知り合い、ヒントを与え合ったり、一緒にプロジェクトを立ち上げたりするきっかけができるのだ。

 

 

Petronas Dagangan CEOPetronas Dagangan CEOのDato' Sri Syed Zaial Abidin氏(左)と、Common Ground共同創業者のJuhn Teo氏(中央)

 

 

マレーシアのライフスタイルメディア「PEAK」の動画に出演したCommon Ground創業者のJuhn TeoとErman Akinciはこう話す。

 

「Common Groundは、椅子と机とインターネットだけじゃなくて、ライフスタイルを提供している。さまざまな業種や国籍の人がいれば、そこにはコミュニティが生まれ、コミュニティがあれば、そこにはライフスタイルが生まれる。
小さなワーキングスペースには多様性がないからお互いから学ぶことも少ないし、躍動感も生まれない。だから、できるだけ大きなスペースを作りたかったんだ」

 

 

Common Ground

 

 

Common Groundには、注目を集めているスタートアップ「GoGet.my」や、韓国発のカーシェアリング「SO CAR(ソ カー)」も拠点を置いている。

 

勢いはあるが資金はないスタートアップと、資金がふんだんにあって新しいアイデアを求めているペトロナスのような大企業。

コワーキングスペースが、この二つが出会う場となれるのであれば、いろんな新しいアイデアが実現化に向けて動き出して行きそうだ。

 

 

 

ホテルのような「高級感」で勝負するColony

もう一つ、注目を集めているコワーキングスペースがある。

ラグジュアリーな雰囲気のインテリアがインスタグラムなどで話題となったコワーキングスペースの「Colony(コロニー)」だ。

 

Colonyの1拠点目は、ツインタワーにほど近いコンドミニアムの2階にあり、1フロアのみと規模はそれほど大きくない。

一方、2拠点目は、新しくできた複合施設「KL ECO City(ケーエルエコシティ)内の商業ビルの5フロアを借り切った広大なスペースを有する。

眺めのいい最上階のフロアはイベントなどを開催するスペースで、その下の4フロアがコワーキングスペースだ。

 

 

Colony@KL Eco City気分転換にちょうど良さそうなハンモック、ナップルーム(仮眠室)、電話ルームなども設けられているColony@KL Eco City

 

 

エントランス横にコンシェルジュカウンターがあり、来客の対応、宅配の配送受け取り、ミーティングルームやイベントスペースの管理などを行ってくれる。

その向かいにはカフェ、奥には子どもを遊ばせながら仕事ができるキッズルームもある。

 

2フロア分のオフィススペースは、すでに食品輸入卸の大手企業がアンカーテナントとして入居することが決まっているなど、まさに順風満帆である。

 

 

Colonyを立ち上げたTimothy Tian氏Colonyを立ち上げたTimothy Tian氏

 

 

Colony創業者のThimothy(ティモシー)は、ブログ向けの広告会社「Netccentric Limited」を経営しており、2015年には優れた起業家に贈られるEY Entrepreneur Of The Year Malaysiaを受賞するなど、注目を集める若い起業家だ。

 

そして、Colonyのターゲットは、ティモシーと同じミレニアル世代。

今後、社会を支える働き手の大部分を占めるようになっていく層である。

こういった層が求めるもの、つまり、インスタ映えする高級感あるスタイリッシュなインテリア、フレキシブルな働き方ができるワーキングスタイル、アメニティが充実したオフィスを具現化したのが、Colonyなのだ。

 

 

 

旧来のオフィスと違うのは、設備だけじゃない

先述のCommon Ground Ampangのオープニングイベントで、自らもCommon Groundに拠点を置くスタートアップ企業GoGe.myのCEO、Francesca Chia(フランチェスカ・チア)は、こう語った。

 

「スタートアップ企業にとって、旧来のオフィスは手間もコストもかかるものでした。
契約は1年単位でしなければならず、家具を購入して、水道光熱費、インターネット、コピー機などの費用を毎月支払って、コピー用紙やトイレットペーパーが切れたら買いに行かなければならない。

コワーキングスペースは、すべてその問題を解決してくれる。しかも、Common Groundは、イベントを開催して、新しいアイデアやヒントを得る機会も作ってくれる。

Common Groundの他の拠点でも仕事ができるので、ノートPCがあれば仕事に集中できるというすばらしい環境だと思う」

 

イギリス系不動産コンサル大手のKnight Frank(ナイトフランク)が、2017年末に発表したレポートによると、クアラルンプールとその周辺地域では、コワーキングスペースやシェアオフィス、サービスオフィスの需要が伸びており、その傾向は2018年度も続くとされている。

今後、IT系の起業家や中小企業が増えていくとみられるが、ITなど新しい技術や、場所や時間を固定しないフレキシブルなワークスタイルが普及すれば、コワーキングスペースへの需要はさらに高まっていくだろう。